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苔の生命力

本日の東京は、台風一過の快晴の日曜日。僕ら夫婦は子どもたちを抱えて、上野の東京都美術館にて催されている、(財)国際文化カレッジ主催による総合写真展を見学してきた。全国規模の公募展であるこの総合写真展に僕らが出向いた理由はただ一つ。それは、僕の父が応募した写真が、審査員奨励賞を受賞して展示されているからである。

父の写真は、山奥の川沿いの巨石にびっしりと生えた“苔”をモチーフにしていた。これは今回の公募に限った事ではなく、カメラを構える時の父は好んでこの“苔”をモチーフに選ぶ。僕が父と一緒に墓参りなどに行くと、よく「苔というのは凄いんだよ」と言ってその凄さを説明されたものだ。何が凄いと言われたのかは正直覚えていないのだが。

今年70歳になった父は、趣味の写真撮影を通じて、自分が好きなものを自分で好きなように表現し、そして審査員奨励賞という、ささやかではあるが賞まで頂いたのだ。父が公募展で賞をもらえるなんて、もしかしたら最初で最後かも知れないと思って、だったら息子である僕が見に行かないわけにはいかないと思った。

先日、僕がめでたく(?)35歳の誕生日を迎えた際、実家の母からおめでとうのメールが届いた。「あなたのお父さんと同じ年齢で、あなたもパパになりました。お父さんガンバってね」 


我が家の息子たちが35歳になる頃、やはり僕は70歳になっている。そう考えると何だか不思議な輪廻を感じてしまうのだが、しかし70歳になった僕は、今の父と同じように、何かに夢中であり続けられるだろうかとふと思った。僕は、あらゆる意味で、あの人にはまだまだ及ばない。父が撮影した写真は、岩肌がびっしりと苔に覆われて、写真全体からまばゆいばかりに緑が発色された、苔の瑞々しい生命力に溢れる素晴らしい写真であった。