天皇の逝く国で

ノーマ・フィールド/大島かおり訳 1994年初版

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この本は、1998-89年、故昭和天皇の病いと死の時期のあいだの、私たち日本人の行動様式と心性、そしてそこにさまざまなかたちで顕在化したあまたの問題を描き、考察している。著者ノーマ・フィールドは日本生れのアメリカ女性で、現在はシカゴ大学教授、日本でもすでにいくつかの論評とエッセイを発表していて*、注目をあつめてきた日本文学研究者である。(訳者あとがきより引用)

*「『悲惨』な島国のパラドックス」、『文学界』1986年6月。
「『なんとなくクリスタル』とポストモダニズムの徴候」『現代思想』1987年12月。
「パールハーバーを越えて」『みすず』1992年2月。 他



僕はまだ読書中だった頃、この本の事をブログで記事にするべきか否か、随分迷った。というのも、本の内容が思っていた以上にリベラルで、ここまで「左」的な本を今まで読んだ事が無かったので、頭の中で消化するのに随分時間が必要だと思ったからだ。

沖縄の国体で日の丸を焼いた知花昌一、自衛官合祀違憲訴訟をおこなった山口の中谷康子、天皇の戦争責任について発言した長崎市長の本島等。著者は、3人が引き起こした事件を通して、そこであらわになった日本の文化・社会の構造を描きだそうとしている。

しかしこの本は単なる政治的・文化的思想を述べているだけではなかった。3人の日本人の、現在及び過去の生い立ちから生活まで、丹念に取材して紹介してくれる。そして著者自身と、その家族たちの事も。

著者はアメリカ人の父と、日本人の母をもち、戦後を基地内のアメリカンスクールで過ごす「アウトサイダー」として生きた。著者自信の個人史を、日本社会の「ふつうの」市民の「ふつうならざる」物語とないまぜに語るスタイルは、日本の人々への深い理解と共感をひびかせ、内容に精細と説得力を与えている。先に出版されたアメリカでは「全米図書賞」を受賞してもいる。


僕は、絶望と希望の交錯する、現在のこの世の中に対して、「個人」として疑問を投げかけ、静かに訴え、共感を共有しようとするのは文学の特権だと思う。その意味で、この本に出会えた事は幸運だった。世界を、今までよりも少しだけ、深く洞察できるようになった気がした。
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by BlueInTheFace | 2004-10-01 02:48 | 読書