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血と骨(上)(下)

血と骨(上)(下)_b0011238_8123067.jpg梁 石日著 幻冬社文庫/2001年

一九三〇年頃、大阪の蒲鉾工場で働く金俊平はその巨漢と凶暴さで極道からも恐れられていた。実在の父親をモデルにしたひとりの業深き男の激烈な死闘と数奇な運命を描いた山本周五郎賞受賞作!


2004年の暮れに公開され、ビートたけし主演の映画として話題を集めた『血と骨』の文庫本を読んだ。この本を読んだ人、或いは映画を観た人の誰もが感じるように、僕もこの作品、特に金俊平というキャラクターには大きな衝撃を受けた。

戦前・戦後の動乱期の大阪を生きた、済州島出身の主人公・金俊平の生き様を現代風に表現すれば、一言「パンク」である。自分以外の何者をも信じず己のみを信じ、集団に属することを嫌い、酒・博打・女に溺れ、常軌を逸した暴力によって全ての他社を服従させる。この金俊平という男の逆鱗に触れたが最後、命の保障はない。不条理極まりない金俊平の暴力に怯えながら、それでも懸命に「生きる」事を選択する家族や周囲の人々。

この物語は、金俊平の周りに巻き起こる様々な悲劇が、三人称の文体で淡々と綴られている。まるで、個人の意思など一切関係なく、死ぬも生きるも天命の赴くままといった具合だ。絶望のどん底にいようが希望に満ちていようが、時の流れは容赦なく僕らを襲い、死へと誘う。人間の生への執着といったものが、途方もなく虚しく響く。一人の人間の無力さというものを痛感させられる作品だ。

それは金俊平も例外ではなかった。破壊の限りを尽くすこの男の未来が、破滅の道へと一直線に突き進んでいたのは明らかだった。僕はこの作品を読んでいてふと気付いたのだが、この罪深き金俊平という男は、果たしてどのような死を遂げるのかという好奇心・・・一度読み始めたら止まらないこの作品の魅力は、僕たちのその好奇心にあるのではないかと思った。「この男は、死んだほうがましだ・・・」。金俊平ほどではないが、僕たちの心の素地には、暴力的なものが常に潜んでいる。

by BlueInTheFace | 2005-08-03 18:45 | 読書