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タイムカプセル開封式

高橋留美子傑作集『赤い花束』を読んだ(漫画ネタばかりですみません)。帯には「人生の輪郭を優しく丁寧になぞった 高橋留美子劇場」とあり、まさにその通り、彼女の天才性がいかんなく発揮された短編集だった。

収録された6編はどれも皆いい作品だったのだが、最初の「日帰りの夢」という話に、僕は自分の過去の記憶が呼び戻されるのを感じたのだった。「日帰りの夢」のストーリーは、幼い頃、父親の仕事の都合で転校ばかりしていた、今は妻と一人息子を抱える一家の主、東雲氏の所に、中学の同窓会の招待状が届く場面から始まる。その招待状の裏面には、当時あこがれの女性だった志摩さんの名前が幹事として記されていた。東雲氏は、意を決して同窓会の会場へ向かう・・・とこんな感じ。

今から2~3年前、僕は出身の小学校で開かれた「タイムカプセル開封式」に出席した。小学6年生だった当時、「皆の記念品をタイムカプセルに入れて地下に埋め、20年後の開封式で集まろう」と企画されたものだった。開封式は、正確には埋めた時からまだ18年ほどしか経っていなかったのだが、「少子化による生徒の減少の影響により、母校が統廃合される」ことになってしまった為、時期を繰り上げて開封式が行われたのだ。

で、僕がいそいそと母校に向かうと、すでにたくさんの懐かしい顔ぶれが揃っていて、変わっていたり変わってなかったり、中には誰だかわからない人もいたりして、皆思い思いに旧交を深め合った。中学の時ヤンキーだったT君が真面目にサラリーマンやっていたり、お調子者のH君がホストになっていたり、小学校の頃からすでに巨乳だったTさんがますます巨乳になっていたり・・・。「おまえ、フケたなぁ」と白髪まじりの僕の頭を見た友人が言うので、僕は「おまえは全く変わってないな。成長してないだろう」などと言い合ったりしてた、その時だった。

僕の背後から「○○君(←僕の名前)、私のこと覚えてる?」と離しかけてきた女性がいた。僕は一瞬誰だか分からなかったが、すぐに気がついた。小学5年生の時、相思相愛の仲だったKさんだということに。僕は「Kさんでしょ?当然覚えてるよ!」と返した。



当時Kさんと僕とはクラスの席がとなり同士で、僕は密かに彼女に想いを寄せていた。いつだったか、社会の授業で聖徳太子を習っている時、僕はKさんに向かって教科書を差し出し、聖徳太子と書かれた横に「しょうとくタコ」とルビをふって、タコの絵を書いて見せたら、彼女がとても大喜びしてくれたので、すっかり有頂天になったものだ。人づてにKさんが僕のことを好きだと聞いてからは、僕ら二人は一緒にいること自体が楽しくて仕方がなかった。

しかしKさんとの仲は、時々学校で会話する以外にたいした進展はなかった。それよりも僕は校庭でサッカーをやったり、放課後は友達と遊んでいるほうが楽しかった。なにより、女性とお付き合いする方法が、当時の僕には皆目検討がつかなかった。そのうち、クラスの中に「○○君(←僕の名前)はTさんの事が好きなんだ」と根も葉もない噂をたてられるようになった。だが僕は、ムキになって否定するより放っておこうと決めていた。今思うと、あの時ちゃんと否定しておけば・・・。おそらくKさんはその噂に相当ショックを受けたに違いない。いつのまにか、僕とKさんのお付き合い(?)は自然消滅していた。その後Kさんとは中学校も一緒だったが、ついに3年間、会話を交わす事はなかった・・・。


そのKさんが、タイムカプセル開封式で僕に話し掛けてきた。彼女は横にいる男性を僕に紹介した。「あ、これうちの旦那」。どうやらKさんは今、結婚して子どもがいるとの事。おぉそうか!彼女は今幸せ真っ只中のようだ。彼女の笑顔を見てそう確信した。僕は彼女の幸せを、自分のことのように嬉しく感じた。とりとめの無い話をした後しばらくして、彼女は皆より一足先に「じゃ、またね」と言って去っていった。もう会う機会はこないだろうなぁと、お互い感じながら・・・。

・・・以上。「日帰りの夢」を読んで、昔の甘酸っぱい記憶の断片が僕の頭をかすめて行き、なんとも言えない清々しい気分にさせてくれたのだった。こんな打ち明け話、恥ずかしくてあまり人に話せる内容ではないけど、ブログの中でなら構わない・・・かな。