冗談

ミラン・クンデラ 著/関根日出男・中村猛 訳、みすず書房(日本語版1992年)
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1967年にチェコで刊行されたクンデラの op.1 『冗談』は、忽ち世界各国で翻訳、アラゴンは「今世紀最大の小説の一つ」と讃えた。「今世紀の傑作は社会主義の地から出る」というサルトルの予言は、クンデラによって実現されたのである。おのれの魂という怪物とのみ戦えばよかった時代、ジョイスとプルーストの時代は過ぎ去った。現在の小説家が戦うのは、<歴史>という外部からやってくる怪物である。20世紀文学の傑作『冗談』は、こうして誕生したのである。

昨年の東京国際ブックフェアにて買ったクンデラの『冗談』をようやく読み終えた。彼の著書の中には、映画化された事で有名な『存在の耐えられない軽さ』がある事を後に知って、無性に観たくなった。というのも、この『冗談』を読み終えて本当に傑作だと思ったから。

昨日の行為は今日になればくすんでしまう。そして、忘却によりたえず蝕まれている人生に私たちをかたく結びつけている絆が、ノスタルジアである。慈悲深いノスタルジアと無慈悲な懐疑が、天秤の両皿として、この小説の平衡を保っている。

上記の著者前書きが、全てを語っている。舞台は社会主義国家チェコ、もうそれだけでノスタルジアを感じてしまうではないか。当時、理想の国家像を求めた人々は、そのユートピアを見つける事ができなかった。これは歴史の大きな『冗談』の罠だったのか。こう書いてしまうと何やら堅い話のように思われるかも知れないが、この物語はれっきとしたラブ・ストーリーである。

決して100%分かり合えるはずのない、しかし愛し、愛される事を渇望し続ける僕たちもやはり、『冗談』の罠から抜け出せない存在ならば、この物語はまさに僕たちの物語である。人生という悲しいユーモア。

主人公のルドヴィークをはじめとする、登場人物達の心理描写と時代背景が緻密に描かれていて、クンデラ氏の作家としての相当な力量が窺え、しみじみとした静かな感動を呼び起こす。しかし10年、20年後にもう一度読んでみれば、また違った新鮮な感動を得られるかも知れない。何故なら僕は、人生にノスタルジアを感じてはいても、今はまだそれに浸るには若すぎると思うから。たとえ人生が『冗談』だとしても、僕たちはその真っ只中を生きている。
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by BlueInTheFace | 2005-02-07 01:00 | 読書