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椿山課長の七日間

椿山課長の七日間_b0011238_2495058.jpg椿山課長の七日間
浅田次郎 著
/朝日新聞社 2005年9月30日 初版

働き盛りの46歳で突然死した椿山和昭は、家族に別れを告げるために、美女の肉体を借りて七日間だけ“現世”に舞い戻った! 親子の絆、捧げ尽くす無償の愛、人と人との縁など、「死後の世界」を涙と笑いで描いて、朝日新聞夕刊連載中から大反響を呼んだ感動巨編、待望の文庫化!


浅田次郎の小説を読んだのは『プリズンホテル』に次いで本作が2作目(まだ読んでないストック本は何冊かある)。軽快なタッチの物語を読みたいと本屋を探していて、ドンピシャの本作を見つけたというわけだ。

本作が『プリズンホテル』に比べてより簡潔な表現なのは、字数に制限がある新聞連載だったからだと思われるが、しかし内容は思いのほか濃かった。いや、簡潔な表現だったからこそ逆に作品に深みが出たというべきで、制限を課された中で見事に物語をまとめ上げた著者の力量の凄さを、僕は改めて思い知らされた。著者の哲学・人生観が、小気味いいほどダイレクトにこちら側に伝わってくる作品だった。

登場人物たちは、内面的にも外見的にも、至るところで「逆の真実」と遭遇する。物語の基本設定からして、主人公は死者なのに現世を生き、魂は男なのに肉体は女なのだ。その「同時に」生じているズレが、僕たち読者を笑いと感動へと誘っている。その最たるものが、この作品世界を満たしている「ごめんなさい」と「ありがとう」の心。

読みやすく、時に示唆に富み、そして心温まるストーリー。学生が夏休みの読書感想文に選ぶなら、ぴったりの物語だと思った。読む人の年代や性別によっては、感じ方が多少違うかもしれない。普段本を読まない人にも自信をもってお薦めできる一冊です。

by BlueInTheFace | 2006-08-08 02:51 | 読書