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美しく儚いものたち

決勝トーナメント1回戦最後の試合は、スペイン対フランスという豪華な顔合わせ。グループリーグでスペインが見せた華麗なパスサッカーは、堅い守備を誇る元王者フランスを相手にどこまで通用するのか。スペインは自分たちの“哲学”を貫き通し、同時に勝利を手中に収めることができるか。ジダンという至高の存在を別にすれば、僕の興味の殆んどはそこにあった。

スペインの“哲学”とは、言うまでもなく攻撃。高いボール・ポゼッションの能力を活かし、相手に攻撃の機会を極力与えないという考え方。いわゆる“攻撃は最大の防御”というやつだ。そして相手にボールを奪われてもすぐに囲みに行けるように、最終ラインを押し上げ、常にコンパクトさを保っているチームでもある。

この日のスペインは、4-3-3の中盤にシャビ、シャビ・アロンソ、セスクの3人を置く布陣でゲームに臨んだ。セスクとシャビの同時起用。アラゴネス監督の考え方が浮き彫りになる采配だ。もしフランスの攻撃に備えたいと考えるなら、セスクではなくアルベルダ、もしくはマルコス・セナあたりを使って、シャビ・アロンソと二人で中盤の守りを形成するのが筋だろう。しかし監督は、セスクという若き天才の攻撃力を選択した。おそらく守り勝つ気などさらさら無かったのだろう。

しかしフランスの慎重な、粘り強い、アグレッシブな守備の前に、スペインは活路を見出すことができず、逆にフランスに危険なシーンを何度も演出されてしまった。それでもPKで幸先よく先取点を得ることが出来たスペイン。アラゴネス監督の執念が実った形ではあったが、その代償として請け負うこととなった“中盤のお粗末な守備”は、ジダンという天才に時間的余裕を与えることに繋がり、フランスにリズムをもたらしてしまうのであった。中盤でプレスがかからないなら、高く保ったスペインの最終ラインが波状をきたすのはもはや時間の問題だと思われた。前半41分にリベリーが挙げたフランスの同点ゴールは、スペイン崩壊の序曲となってしまった。

スペイン1-3フランス

フランスは後半38分、FKのこぼれ球をビエラが押し込んで逆転に成功すると、ロスタイムにはスルーパスを受けたジダンがプジョルをかわしてダメ押しのゴール。結局終わってみれば、期待されつつも結果を残せないいつものスペインでしかなかった。華麗な攻撃サッカーによる世界制覇を目指し続けるスペインは、華麗さの残像だけをピッチに残したまま儚く散ってしまった。スペインはもっと相手の良さを消すことも学んだほうがいいのでは、と僕は思う。しかし、このままの攻撃的なスペインでいて欲しいとも思っている。自分たちの理想をひたすら追求し続ける、こんなチームが一つくらいあってもいいではないか。儚い夢なのは分かってるけど、でも次のW杯でもきっと僕はスペインを応援していると思う。


by BlueInTheFace | 2006-06-29 03:49 | サッカー