一昨日、金曜日の話。仕事を終えたのが夜遅かったのだが、終電までまだ間があったので、久しぶりに青物横丁のラーメン屋『樹利』に行ってきた。家族ぐるみで経営している、カウンターだけの小さな店。注文したのは普通の醤油ラーメン(600円)。
ここのメニューは外れが無く、麺ものにしてもご飯ものにしても一品料理にしても、どれもおいしいのだが、基本は、スープの旨みを素直に堪能できる醤油ラーメンに決まりだ。飲んでる人もそうでない人も、納得の一品。僕が終電の時間を気にしつつ味わいながら食べていると、店の端の席に座っていた若い男性二人組(シラフ)が、店の大将であるオヤジに声を掛けた。「大将、ここはホンットおいしいすね!」すると大将はペコリと頭を下げ、ボソっと「ありがとうございます」と言った。横にいた大将の奥さんと、その後ろにいた大将の息子は、黙ってはいたものの、その二人組にニッコリと微笑んだのだった。
これを見た僕も、何とかして大将に「おいしい」という気持ちを伝えたいと思った。しかし、タマにではあるが昔から散々このラーメン屋に来ていながら、そんな台詞を一度も口にしたことのない僕が、今さら「おいしいですね」と言うのもどうかと思った。毎回ラーメンを食べては、スープの最後の一滴まで飲み干す僕を見て、大将も僕が満足していることくらい分かっているとは思うが、この時は、どうしても言葉で伝えなければ、と思ったのだ。
そこで、この日も最後の一滴までスープを飲み干した後、会計の時に思い切って言ってみた。「今日もおいしかったです」言えた!さらっと言えた!すると大将は先ほどと同じように「ありがとうございます」と言い、奥さんはニッコリと微笑んでくれた。僕は心もお腹も満たされて、気持ちよく家路につく事ができたのだった。