デボラの世界

[分裂病の少女]デボラの世界
ハナ・グリーン著/佐伯わか子・笠原嘉 訳/みすず書房 1964年アメリカ

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 狂気の世界の魅力と不思議さが、これほど明晰に、美しく描かれたことはなかったであろう。十六歳の少女の、三年間にわたる精神病院での生活と、狂気から現実への旅路をえがくこの小説は、すぐれた精神科医フリーダ・フロム=ライヒマンの面影をつたえているといわれる。狂気を語る小説は数多いが、分裂病という難病について、現代の精神病理学がもっている知見をこれほど正確に十分にふまえて書かれた小説は他に類をみない。一つの生命のきびしい闘いの勇気にみちた物語は、無限の悲哀とかずかずの恐怖をテーマに含みながらも、その読後感は、さわやかに人を勇気づけるであろう。


精神分裂病(現在は「統合失調症」と病名が改められている)という病気、特に重度の分裂病患者を僕たち健常者がイメージする時、幻覚や妄想によって彩られた、理解を超えた行動・言動に恐怖を覚える人は多いだろう。彼らの考えている事が僕たちの想像をはるかに超えていて、まるで僕たちの住む世界とは別の世界の住民のようにみえる。しかしこの小説を読めば、その印象は少し違ったものに変わるはずだ。彼らはまぎれもなく僕たちと同じ人間であり、助けを求め、理解を欲し、そして何とか世界に希望を見いだそうとしているのだ。

早熟だった幼少期のころから、矛盾や欺瞞に満ちたこの世界に絶望し、そこに上手く折り合いをつける事ができなかった為、徐々に自分の内なる精神世界を構築してしまった主人公のデボラ。彼女の精神が周りから虐げられたと感じた時、その内なる世界に逃げ込んでしまえば、もう誰にも邪魔されずに済むのだ。しかもその精神世界は、彼女の意思とは関係なく(あるいは無意識のうちに)突然現れて、彼女を連れて行ってしまうのだった。肉体がここに在るのに、精神は内なる世界をさ迷い続けるのだ。

考えてみれば僕たちだって、この世界に矛盾や欺瞞を多々感じている。誰が精神を病んでしまっても、おかしくはないのだ。春の確かな彩りを全身で感じ、雨に喜ぶ草花に深呼吸し、やがて来る燃える新緑の季節を想うことのできる自分は、なんて幸せなんだろうと、ふと思った。


※総合失調症に関する誤った記述があれば、即座にお詫び訂正致します。また、この記事の内容はあくまで「デボラの世界」についてのレポートです。総合失調症の病状等を詳しく知りたい方は、関連の書籍やホームページ等を参照してください。当方、精神医学については全くの素人な為、質問されても答えかねますm(_ _;)m
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by BlueInTheFace | 2005-04-23 13:10 | 読書